無精子症とは?不妊の原因になる男性の病気
不妊の原因は女性だけではありません。実は、不妊カップルの約半数は男性側にも何らかの問題があると言われています。その中でも、最も重度な男性不妊の病気が「無精子症」です。無精子症とは、射精した精液中に精子が全く見られない状態のことを指します。無精子症になると、自然妊娠はほぼ不可能になります。
無精子症は、日本人男性の約1%が患っていると推定されています。しかし、無精子症になる原因や種類、検査方法や治療法などはあまり知られていません。この記事では、無精子症について詳しく解説します。無精子症の方や、不妊で悩んでいる方、またそのパートナーの方にとって、参考になる情報をお伝えします。
無精子症の原因は何?生活習慣や病気が影響する可能性
無精子症になる原因は、大きく分けて2つあります。一つは、精巣で正常に精子が作られているのに、何らかの理由で精液と合流できない場合です。これを「閉塞性無精子症」と呼びます。もう一つは、精巣で精子を作る能力が低下してしまった場合です。これを「非閉塞性無精子症」と呼びます。
閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症では、治療法や妊娠の可能性が異なります。そのため、正確な診断が必要です。診断するためには、まず射精した精液を顕微鏡で調べて、本当に無精子症かどうかを確認します。一回だけでは判断できない場合もあるので、複数回検査することが望ましいです。
次に、ホルモン検査や超音波検査を行って、閉塞性か非閉塞性かを判断します。ホルモン検査では、FSH(卵胞刺激ホルモン)というホルモンの値を見ます。FSHは脳下垂体から分泌されて、睾丸に指令を出して精子を作らせるホルモンです。FSHが高い場合は非閉塞性無精子症の可能性が高く、正常または低い場合は閉塞性無精子症の可能性が高いと言えます。
超音波検査では、睾丸や精巣上体(せいそうじょうたい)という器官の大きさや形を見ます。睾丸は精子を作る器官で、精巣上体は精子を貯めておく器官です。睾丸が小さくてやわらかい場合や、精巣上体が膨らんでいない場合は非閉塞性無精子症の可能性が高く、睾丸や精巣上体が正常な場合は閉塞性無精子症の可能性が高いと言えます。
閉塞性無精子症の原因としては、以下のようなものがあります。
- 過去に性感染症による精巣炎や副睾丸炎を起こしたことで、精路が炎症や癒着によって閉塞した場合
- 子供の頃に鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)の手術を受けたことで、精管が傷ついて閉塞した場合
- 先天的に精管が欠損している場合(先天性両側精管欠損症:CABVD)
- 精管結紮術(せいかんけっさつしゅじゅつ)などの避妊手術を受けた場合
非閉塞性無精子症の原因としては、以下のようなものがあります。
- 生まれつきの染色体異常(クラインフェルター症候群やY染色体微小欠失など)によって、精子を作る能力が低下した場合
- 成人になってからおたふくかぜにかかって精巣炎を起こしたことで、精子を作る細胞が壊死した場合
- 抗がん剤や放射線治療を受けたことで、精子を作る細胞が障害を受けた場合
- 重度の精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)によって、睾丸の温度が上昇して精子を作る細胞が損傷した場合
- 原因不明の造精機能障害(特発性非閉塞性無精子症)の場合
無精子症になる原因は、生活習慣や病気などさまざまです。しかし、原因がわかれば治療法や妊娠の可能性も見えてきます。そのため、不妊で悩んでいる方は、早めに専門医に相談して検査を受けることが大切です。
無精子症の種類と特徴を知ろう!閉塞性と非閉塞性の違いとは?
無精子症は、閉塞性と非閉塞性に分けられます。この2つの種類は、無精子症になったメカニズムや治療法が異なります。それぞれの特徴を以下にまとめました。
種類 | 特徴 | 治療法 | 妊娠の可能性 |
---|---|---|---|
閉塞性無精子症 | 精巣で正常に精子が作られているが、何らかの理由で精路が閉塞している。 | 精路再建手術で通り道を開通させる。または、TESE(精巣内精子採取術)で直接精巣から精子を採取する。 | 精路再建手術で自然妊娠する可能性もある。TESEでは |
TESEでは、体外受精や顕微授精などの高度な不妊治療を行う。 | | 非閉塞性無精子症 | 精巣で精子を作る能力が低下している。精巣内に精子が少ないか、全くない場合もある。 | ホルモン剤で精子の生成を促す。または、TESEで直接精巣から精子を採取する。 | ホルモン剤で自然妊娠する可能性は低い。TESEでは、体外受精や顕微授精などの高度な不妊治療を行う。 |
無精子症の種類と特徴を知ることで、自分に合った治療法や妊娠の可能性を把握することができます。しかし、無精子症の診断や治療は専門的な知識や技術が必要です。そのため、無精子症の方は、必ず男性不妊に詳しい医師に相談してください。
無精子症の検査方法と費用について!自宅でできる検査キットも紹介
無精子症かどうかを確かめるには、検査を受ける必要があります。検査は主に以下の3つの方法があります。
- 精液検査
- ホルモン検査
- 超音波検査
これらの検査は、男性不妊専門のクリニックや泌尿器科などで行われます。検査には予約が必要な場合もあります。また、検査前には射精禁止期間(3~5日程度)が設けられることもあります。
検査の費用は、クリニックや検査項目によって異なりますが、目安として以下のようになります。
- 精液検査:3,000~10,000円
- ホルモン検査:5,000~20,000円
- 超音波検査:5,000~10,000円
これらの検査は、健康保険が適用されません。自費で支払う必要があります。
一方、自宅でできる無精子症の検査キットも市販されています。これは、射精した精液を試験紙に付けて色の変化を見ることで、精液中に精子が含まれているかどうかを判断するものです。自宅で手軽に検査できるというメリットがありますが、以下のようなデメリットもあります。
- 精度が低い
- 閉塞性か非閉塞性かはわからない
- 精子の数や形や運動性はわからない
- 原因や治療法はわからない
自宅でできる無精子症の検査キットは、あくまでもスクリーニングテストとして使うべきです。正確な診断や治療には、医師による専門的な検査が必要です。
無精子症の治療法は?ホルモン剤や手術などの選択肢と効果
無精子症の治療法は、無精子症の原因や種類によって異なります。一般的には、以下のような治療法があります。
- ホルモン剤
- 手術
- 不妊治療
ホルモン剤は、非閉塞性無精子症の場合に用いられます。ホルモン剤は、精子を作るために必要なホルモン(FSHやLHなど)を補充することで、精巣の造精機能を改善する効果が期待されます。ホルモン剤は、注射や錠剤などの形で服用します。ホルモン剤の効果は個人差がありますが、約半年から1年程度で精子が出現することがあります。しかし、自然妊娠する可能性は低いと言われています。
手術は、閉塞性無精子症の場合に用いられます。手術は、精路の閉塞部位を切除して再接続することで、精液と精子の通り道を開通させるものです。これを「精路再建手術」と呼びます。精路再建手術は、微細な器具や顕微鏡を使って行われる高度な技術が必要な手術です。手術の成功率は、閉塞部位や経過時間などによって異なりますが、約50~80%程度と言われています。手術に成功すれば、自然妊娠する可能性もあります。
不妊治療は、閉塞性無精子症でも非閉塞性無精子症でも用いられます。不妊治療は、TESE(精巣内精子採取術)で直接精巣から精子を採取して、体外受精や顕微授精などの高度な不妊治療を行うものです。TESEでは、局所麻酔下で睾丸に針を刺して組織を採取し、その中から顕微鏡で精子を探します。TESEで採取した精子は冷凍保存することもできます。TESEでは、非閉塞性無精子症でも約50%程度で精子が見つかることがあります。TESEで採取した精子を使って体外受精や顕微授精を行えば、妊娠する可能性もあります。
無精子症の治療法は、ホルモン剤や手術や不妊治療などさまざまです。しかし、どの治療法も必ずしも成功するとは限りません。また、費用や副作用やリスクも考慮する必要があります。そのため、無精子症の方は、医師と相談して自分に最適な治療法を選択することが大切です。
無精子症でも妊活できる!体外受精や顕微授精などの不妊治療の流れと注意点
無精子症でも妊活できる方法として、体外受精や顕微授精などの不妊治療を利用することができます。体外受精や顕微授精とは、精子と卵子を体外で受精させて、受精卵を子宮に移植する方法です。これらの不妊治療は、無精子症の方にとって、妊娠の可能性を高める有効な選択肢です。
体外受精や顕微授精を行う場合、以下のような流れになります。
- 女性は排卵誘発剤などの薬を服用して、卵巣から複数の卵子を排出させます。
- 女性は超音波検査や血液検査などで、卵子の成熟度や排卵時期を確認します。
- 女性は卵管から卵子を採取する手術(採卵)を受けます。
- 男性はTESE(精巣内精子採取術)で直接精巣から精子を採取します。
- 精子と卵子を培養液に入れて受精させます。体外受精では、約10万個の精子と1個の卵子を混ぜて自然に受精させます。顕微授精では、1個の精子を針で卵子に注入して人工的に受精させます。
- 受精した卵子(受精卵)は培養液で数日間育てます。この間に、受精卵の数や質を確認します。
- 受精卵の中から最も良いものを選んで、女性の子宮に移植する手術(胚移植)を行います。
- 胚移植後に妊娠判定を行います。
体外受精や顕微授精は、無精子症でも妊活できる方法ですが、以下のような注意点もあります。
- 費用が高い
- 副作用やリスクがある
- 成功率が低い
- 精神的な負担が大きい
体外受精や顕微授精は、一回あたり約30~50万円程度かかります。健康保険は適用されませんが、助成金制度があります。助成金制度は、年齢や所得などによって異なりますが、一回あたり約15~30万円程度の助成金が受けられます。
体外受精や顕微授精は、排卵誘発剤や手術などによって、副作用やリスクがあります。副作用としては、頭痛や吐き気などの軽度なものから、多嚢胞性卵巣症候群(OHSS)や感染症などの重度なものまであります。リスクとしては、流産や多胎妊娠などがあります。
体外受精や顕微授精は、成功率が低いと言われています。成功率は、年齢や原因などによって異なりますが、平均して約20~30%程度と言われています。つまり、8~9割の確率で失敗するということです。
体外受精や顕微授精は、精神的な負担が大きいと言われています。不妊治療は、長期間にわたって繰り返すことが多く、その間には不安やストレスや落胆などの感情が生じます。また、パートナーとの関係や周囲の理解も重要な要素です。
体外受精や顕微授精は、無精子症でも妊活できる方法ですが、費用や副作用やリスクや成功率や精神的な負担などを考慮する必要があります。そのため、体外受精や顕微授精を行う場合は、医師と相談して十分に情報を得てから決めることが大切です。
まとめ
無精子症とは、射精した精液中に精子が全く見られない状態のことを指します。無精子症になる原因は、生活習慣や病気などさまざまです。無精子症は、閉塞性と非閉塞性に分けられます。これらの種類は、治療法や妊娠の可能性が異なります。無精子症かどうかを確かめるには、検査を受ける必要があります。検査は、クリニックで行われますが、自宅でできる検査キットもあります。無精子症の治療法は、ホルモン剤や手術や不妊治療などがあります。無精子症でも妊活できる方法として、体外受精や顕微授精などの不妊治療を利用することができます。
無精子症は、男性不妊の最も重度な病気です。しかし、無精子症でも諦めずに妊活できる方法があります。無精子症の方や、不妊で悩んでいる方、またそのパートナーの方は、この記事を参考にしてください。そして、医師と相談して自分に最適な治療法を選択してください。無精子症でも夢の赤ちゃんを授かることができるかもしれません。応援しています!